閃光のように・・・ ≪前篇≫AFRO IZM 先の世界のヒトビトは、自らの知恵に溺れ、生きる場所を失った。 残ったヒトビトは、あるいは元々いた大地にとどまり、あるいは海に逃げ、あるいは洞窟に逃げ、あるいは森に逃げた。 何もかも、全てが一からのやり直し。 あらゆる科学文明が世界から消え、そこには力のない者だけが堕ちていく時代になった。 すなわち、狩るか、狩られるか――――。 明日の糧を得るため、己の力量を試すため、またあるいは富と名声を手にするため、ヒトビトはこの地に集う。 彼らの一様に熱っぽい、そしていくばくかの希望を見据えた視線の先にあるのは、 決して手の届かぬ紺碧の空を自由に駆け巡る、力と生命の象徴―――飛竜(ワイバーン) 鋼鉄の剣の擦れる音、 大砲に篭められた火薬のにおいに包まれながら、 彼らはいつものように、命を賭した戦いの場へと赴く―――。 そんな彼らを、ヒトビトはモンスターハンターと呼ぶ・・・・・。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~≪前篇≫~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「ハァッ、ハァッ、ハァッ」 静かな光が差し込み、どこからか小鳥の鳴く声が聴こえ、少し湿った土が広がる場所。 ハンター達が“森と丘”と呼ぶこの地で、今まさに一つの生命が終焉を迎えようとしていた。 「間に合うか・・・?」 黒色の頭髪、前髪を右目のほうに垂らし、その垂らした髪の一部分が金色、襟足は左側だけ長めの男が問う。 「間に合わねぇと困るだろ!!」 茶色の頭髪、オールバックで、襟足は一本に結んであり、右耳に羽の付いたピアスをつけた男が答える。 「だよなぁ~~~、頼む!!」 「やべぇ、追いついてきたぞ!」 そう言ってさらに走る速度を上げた二人の男。 その男を後ろから追いかける巨大な生物、世間一般では雄火竜リオレウスと呼ばれ、空の王者と恐れられている飛竜だ。 「よし、準備はできてるみてぇだな、突っ込むぞ!!」 「はいよ・・・、せぇのっ!!」 そう言って二人が飛び込んだそこは、大きな木の根が盛り上がり、穴を作った場所だ。 その大きな根っこの上には、大きなタルが置いてある。 「ギャァーーー!!」 大きな鳴き声を上げながら急停止しようとするリオレウス。 だが、大空を飛ぶ翼を手にした代償に、元々生えていた前足は退化。 その短い足は翼と結合され、すでに足としての機能を失くした。 必然的に前傾姿勢になったために、地上での急旋回の機動力は皆無、雄火竜はバランスを崩して転んだ。 その瞬間・・・。 ―ドォォォン― 根っこの上に置いてあったタルが爆発した。 爆発は完璧にリオレウスの顔面で爆発し、頭が半分ほど吹き飛んでしまった。 「だいぶギリギリだったな・・・」 茶色の頭髪、長髪で、見事にストレートな髪質、前髪は六対四で分けてあり、視界に支障がないようにしている。 冷静な口調で手にした筒状の物を肩にかけながら、男が言う。 「だから俺は走るのが苦手なんだ・・・、ってリョー!!」 そう呼ばれた男は、息を切らしながら倒れていた。 「ハァやっぱり、ハァ走るのは、ハァ若い奴がハァ・・・」 「桜火、さっさと剥ぎ取り済ませて置いてこう」 そう呼ばれた男は、“それもそうだな”とリオレウスの方へ向かった。 「カイ、シュウは?」 桜火がそう呼んだ男は、小瓶をリョーに投げて言った。 「あぁなんか“メラルーにカナブン盗まれた~!”とか言って集落に行ってるよ」 「うぉ~~い・・・、って終わってるじゃんか!!」 そう言って大きなカナブンを持ちながら走ってきた男は、リオレウスの亡骸に向かっていった。 黒色の頭髪、短髪で、モヒカン気味に立ててある。ミナガルデで流行の「ベッカムヘヤァ~」だ。 「 お ま え ら 」 リョーがムクッと起き上がった。 「少しは心配しろぉぉぉぉぉ!!」 そう言ってリョーも短いナイフを取り出し、 プンプンと怒りながら剥ぎ取り作業を開始しに亡骸のほうへ走っていった。 モンスターの狩猟に成功した際に、そのモンスターごとに決められた回数ぶんの剥ぎ取りが行なえる。 モンスターの外殻や内臓、さらには骨などの、あらゆるものがヒトビトの生活の糧になっている。 しかし、モンスターの中には凶暴な性分の種類もいるので、並大抵の人では剥ぎ取る事ができない。 そこで、彼らのような職業の者がそれを代行する役目を果たしているのだ。 「さてと・・・、帰るか!!」 リョーがパンパンに膨れ上がった袋を背に言う。 それを聞いた他の三人も袋を担ぎ、森と丘の道を歩いて行った・・・。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ここはナスティ州ミナガルデ。 全てを一からやり直し始めたヒトビトは、石を重ね、木を切り、大きな集落、つまりは街を作った。 そこにはヒトが住む居住区、物を売っている商業区、ハンター達が集まる酒場、その他にも色々な場所がある。 ここ“大衆酒場”は、ハンターの仕事、つまりはクエストの出入り口や、食事、仕事のあっせん等をする施設だ。 「うはぁ~~、疲れたぞぉ~~」 桜火はそう言って何か書かれた紙をカウンターの女性に渡す。 「はいお疲れ様、ずいぶん長かったじゃないのよ~」 そう言ってその紙を木箱に入れる女性、名前はベッキーだ。 ベッキーは大衆酒場の仕事管理、料理、クエストの受注と達成の受付をやっている、いわゆる“メイド”だ。 もちろん彼女以外にも料理をする者、掃除をする者、書類を整理する者も大勢いる。 「けっこうデカかったんだよな、かなりタフでさ、結局フィールドに救われた感じだったよ・・・」 「火炎草とニトロダケはすぐ見つかったんだけどさ、大タルが見つかんなくって」 「獣人の集落に行ってマタタビと大タル交換してもらったんだよ、そしたらアイルーにカナブン盗まれちゃってさ・・・」 「ベッキー、適当に料理運んでくれ~、腹が減ったぞ・・・」 桜火、カイ、シュウ、リョーは口々にクエストの詳細を簡単に話す。 「は~い、ちょっと待っててね」 慣れているのか、あまり聞いた様子はないが、そう言ってベッキーは厨房に向かっていった。 「さて・・・、早いとこ席座ろうぜ」 そう言って空いているテーブルを探すのは、がっしりめな体格のリョー。 茶色の頭髪、オールバックで、襟足は一本に結んであり、右耳に羽の付いたピアスをつけている。 鉱石をふんだんに使いながらも、軽くて丈夫な胸当て、 先ほど出会った火竜の雌であるリオレイアの緑色の鱗をベースに、鉱石で補強してある腕当て。 赤い布地で、ハンターズギルドの問題解決人、ギルドナイトが見に付けていると噂されるギルドナイトスカートの形の腰巻。 イーオスと呼ばれる鳥竜種の赤い鱗や皮で作られたズボンに、灰色の鉱石を使ったブーツ。 背中には水竜ガノトトスの素材で作られた〔水剣―乱水―〕と銘打たれた大剣を背負っている。 この大剣、斬撃時に高圧縮された水が噴き出し、それが刃となってモノを斬る仕組みだ。 「あそこ空いてんじゃね?」 そう言ったのは、ややがっしりした体格の桜火。 黒色の頭髪、前髪を右目のほうに垂らし、その垂らした髪の一部分が金色、襟足は左側だけ長め。 モミアゲからアゴまでヒゲを伸ばし、そのアゴにもヒゲを蓄えている。 盲目竜フルフルと呼ばれる飛竜種の皮を表地に、裏地にマカライト鉱石をつかって作られた白いタンクトップ。 そして稀に現れる通常よりも強い固体のフルフルから剥ぎ取れる素材で作られ、前部分をジッパー式にしたパーカー。 さらに裏地にマカライト鉱石を使っていて、この地方にはなく、彼いわく“マカル”と呼ばれる腕巻。 このパーカーと腕巻の二つの防具は染色剤で綺麗に茶色に染め上げらでれている。 そして赤紫色の、腰から脛(スネ)の下のほうまである、これにも裏地にマカライト鉱石を使用した長い腰巻。 腰巻の隙間から時おり見える、毒怪鳥ゲリョスと呼ばれる鳥竜種の皮を使ったズボンに、茶色のブーツ。 腰には左側に二本の刀が差されていた。 一本は鞘が火打石でできており、刃の部分が鋸状に仕上げられていて、刃こぼれを皆無にした〔陰炎(カゲロウ)〕と銘打たれた刀。 一本は鞘が紅蓮石でこしらえられ、雄火竜リオレウスの素材作られた〔飛竜刀―狐火(キツネビ)―〕と銘打たれた刀。 陰炎は、剣閃の速さよりも、その鋸状の刃で擦るように斬りつけ、相手の何もかもを切断する刀。 鍔は何故か、斜めに取り付けられている。 狐火は陰炎より長刀で、雄火竜リオレウスの骨髄を使用し、斬撃時の振動で回りの空気に火がつき、爆発する刀だ。 「ん・・・、でもなんかあれ誰かの荷物じゃねぇか?」 そう言ったのは体格は普通だが、長身のカイ。 茶色の頭髪、長髪で、見事にストレートな髪質、前髪は六対四で分けてあり、視界に支障がないようにしている。 雄火竜リオレウスの赤黒い部分の鱗や甲殻のみを使った防具でまとめており、頭の防具はつけていない。 狩りの最中は右眼に眼帯をしており、本人が言うには“集中力が増すから”らしい。 肩にしょっているのは筒状の武器、この世界ではへビィボウガンと呼ばれる異色の武器だ。 硬い木の実や鉱石を粉末状にして固めた、いわゆる弾丸を発射し、遠距離から攻撃ができる代物。 しかしその反面クセが強く、作られる素材によっては発射される弾丸が制限されたり、 発射可能な弾丸が豊富な代わりに威力が小さかったり、その他にも膨大な知識が必要な武器だ。 彼が持っているのは比較的撃てる弾丸が多い、〔アルバレスト―改―〕で、銃口にはロングバレルが装着されている。 「あの両刃槍はもしかして・・・、って桜火ちょっとっ!!」 そう言ったのは一番体格ががっちりしたシュウ。 彼は“ジュードー”と呼ばれる体術を取得しているらしく、ほぼ毎日桜火の練習に付きあわされている。 その顔には、狩りの時のみ髑髏の兜をつけており一見不気味なようだが、その目は驚くほど綺麗で、非常に不似合いな兜だ。 刃虫カンタロスの硬い甲殻と刃羽で作られた鎧、腕当て。 兜は今は付けておらず、鎧竜グラビモスの幼体、岩竜バサルモスの硬い甲殻で作られた腰当てにくくりつけている。 下半身は、機動力に長けた市販のハンターグリーヴを〔Uモデル〕にモデルチェンジしている。 背中に背負っているのは、十字になった刃がついた槍、〔十字槍―宝蔵―〕で、一般の武器とは違い異色の武器だ。 ランスに似た性能を持ってはいるが、軽いので振り回すことができ、刃が付いているので切り裂く事も可能。 ただし、刃が付いているのは先端のみで、そこから下はただの棒。 だが、素早い突きや斬撃、柄を使った打撃など、多彩な攻撃ができ優れるものの、全体的には細い棒なので防御が薄い。 「かまわねぇよ、席を外してるヤツが悪い・・・」 そう言って桜火はドカッと席に着いた。 「おい、その両刃槍が見えねぇのか桜火よ?」 「ほ~う、ここに座ってたのはお前だったのか時雨(シグレ)よ・・・」 そう言って彼の視線の先に立っていたのは、ちょうど桜火と同じ身長、体格の男。 鎌蟹ショウグンギザミと呼ばれ、上級指定されているモンスターの素材で作った防具を全身に身にまとっている。 「お前なぁ、酒場にいる時くらいその兜とれよな、不気味だぞ」 「フン、お前みたいにおちゃらけた性分じゃないもんでな、早くそこをどけ」 「ほぉ~、席を外してたのはどこのどいつだ?」 一気に険悪なムードになる酒場の一角の席。 しかしリョー、カイ、シュウの三人は、“やれやれまたか・・・”といった風に顔を見合わせている。 「桜火さ、絶対知ってて座ったよな、あの席に」 「うむ、アイツは時雨を見つけると人が変わるからな」 「ライバルだもんなぁ・・・、なんだかんだ時雨も意識してるしな」 カイ、リョー、シュウの三人は口々に話はじめる。 「はいは~い、ケンカしてないでさっさと食べなさいっ」 そう言って料理を運んできたのはベッキー。 頭や肩、腕を全て駆使して五人分の食事を運んできている、とんでもないバランス力の持ち主だ。 「お、時雨もちょうど飯だったのか、なんなら一緒に座らせてくれよ、他に席空いてないみたいだし」 「かまわねぇけど、こいつを正面に座らせるのは勘弁してくれよな・・・」 そう言って時雨は机に置いてあった〔両刃槍―霧雨―〕を背中に背負う。 この両刃槍もまた一般の武器とは違う異色の武器で、市販では売ってない武器だ。 基本的にシュウの持っている槍と同じだが、両刃槍は槍の柄の部分にも刃がついてあり、さらに多彩な攻撃ができる。 桜火と時雨のライバル関係は、武術大会で引き分けの判定でトーナメントを進めなかった時からで、 ちょうど体格や身長が同じ事からそれ以来、狩りや早食い、腕相撲など、様々な事で張り合っている。 武術大会とは、武器を特殊な液体に漬け、切れ味を皆無なまでに落とした武器を使い、ヒトとヒトが己の腕前を競う大会だ。 勝利判定は、相手の急所手前での寸止め、もしくは急所に攻撃を当てる事で終わるが、軽い一撃は無効とされる。 もちろん、基本的には寸止めで決めなければならないが、攻撃が止まらない場合は当ててしまってもよい。 大会にエントリーする前に、専属の教官と練習試合をし、寸止めが行なえるかどうかの技術も試験される。 実力も同じ、身長や体格も同じの桜火と時雨だが、唯一この二人で対照的なのは狩りの姿勢だ。 桜火はパーティで狩りに出て、複数で獲物を仕留めるタイプ。 元々は一人で狩りをしていたが、この街で仲間に出会い、一緒に狩りをするようになった。 時雨は街にいるにもかかわらず、誰も組むことはなく、一人で狩りをするタイプ。 常にショウグンギザミの兜をかぶっており、素顔をさらす事は自宅以外にはないと思われる。 パーティ戦では、モンスターの攻撃対象を分散させる事ができるほかにも、 小型モンスターと大型モンスターが同時にいるエリアで、役割分担をして狩りを円滑に進められるなどその他にも様々なメリットがある。 デメリットとしては、いったんチームワークが崩れてしまうと一気に戦況が危うくなったり、 自己中なメンバーと一緒になってしまうと、そのメンバーが個人プレーに走ってしまったり、様々なデメリットがある。 一人での狩りでは、他のメンバーの事を気づかったりしなくて済むので、自分の腕次第で戦況が変わる単純なシステムだ。 素材採集も自由にできたり、基本的にはやりたい放題な印象だ。 だがそんなイメージとは違い、小型モンスターに集団で狙われるなどよくある事で、この戦況で命を失ったハンターも多い。 デメリットもあるが、メリットを優先してパーティで狩りをする桜火。 他人の性格、腕次第で最悪な状況に陥ってしまうパーティではなく、一人で孤高に狩りをする時雨。 ライバル関係にある二人の対象な部分がこの狩りに対する姿勢である。 「ところで時雨、最近なんか面白いクエストやったか?」 リョーが唐突に話をふる。 「いやいつもと変わらん、なんの面白さもないクエストばかりだ・・・」 「そうダヨネ・・・」 冷たい答えに少し落ち込むリョー。 「っは!お前がそんな性格だからなにやってもつまんねぇんだろ?」 「お前みたいに小うるさいヤツと一緒のクエストよりかは楽しいと思うけどな」 と時雨が答える・・・、桜火は体を小刻みに震わせながら、飛びかかりたい衝動を必死に抑えていた。 とそこにベッキーが二枚の紙切れを持ち、ニヤニヤしながら近づいてきた。 「あんた達~、面白いクエストならあるわよ?」 と、その紙切れを机の上に置く・・・、全員がその紙を覗き込む。 ≪音信不通の村≫ 契約金:100z 報酬金:20000z 依頼主:妹思いの兄 内容文:いつも手紙を送っている妹から返事が届かないんだ!! 村で何かあったんじゃないだろうか・・・、結婚?いやまさか。 と、とにかく妹の様子を見てきてくれないか? 報酬はただ様子を見てくるだけだが、高く払うぜ。 ≪焼けた集落の調査≫ 契約金:500z 報酬金:10000z 依頼主:古龍監察局 内容文:気球で巡回してたら、焼けた集落を発見したの。 こっちで調査するはずなんだけど、あいにく人手が足りなくて。 モンスターの仕業なのか、野党なのか、現地に行って調査してほしいの。 報酬は弾むから・・・、お願いね。 「ほぉ~~~~~~~、なんだこりゃ」 桜火はうなだれた感じで紙を見る。 「ただ様子を見に行くだけでこの報酬はおいしいんじゃねぇか?」 と、このチームのリーダーで基本的にクエストを決定しているリョーが言う。 「調査か、たしかにいつもの狩猟とは違って楽しめそうかもな・・・」 「お前、狩り以外に楽しい事とかあんのかよ?」 桜火はさっそく食ってかかる。 「お前と違って筋肉の脳ミソはしてないからな、楽しいことは沢山あるさ・・・」 「くくくくく・・・」 またも飛びかかりそうになるのをこらえる桜火。 「よし、俺らはこの様子見のクエストやってくんぜ!」 「俺はこの調査をやってくるとしよう、10000zは高いからな・・・」 「はい、それじゃ出発は明日ね、リョーと時雨はこっちに来て契約を済ませてちょうだい」 そうして二人はクエストの受注を済ませ、全員は各々自宅や武具工房、買い物など、準備を整える――――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『こいつは・・・、なかなかにひどいな』 焼けた木片を踏み、辺りを見回す。 家の柱だったと思われる焼けた木片を両刃槍で突き崩す。 『!?』 そこにあったのは、かつてはヒトだったであろう、焼け焦げたモノだった。 『多分、野党の仕業だろうな・・・』 そう判断し、集落を出ようとする時雨。 しかし、集落の出口付近であるモノを見つけ、立ち止まる。 『こいつは・・・、角?』 そこにあったのは、モンスターの角と思われるモノだった。 『この湾曲した角、そしてこの焼け焦げた集落・・・、ん、あのシミはなんだ?』 そこには、ちょうど集落に入ってきた方角とは反対の方向に、血の跡が残っていた。 その血の跡をたどってみると途中で方向を変え、道中馬車で来た道の方へ向かった様子だ。 自分が少し見覚えのある光景へ出た頃には、血の跡はだんだん薄れていた。 「ちょっとマズイな」 ミナガルデの方角を見てそう呟き、時雨は走り出した―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「ちくしょー、報酬金20000zってのはこーゆう理由だったのかよ・・・」 「集合時間が指定されてて、しかも朝早いってのもな・・・」 「おまけに山道だからって馬車もないし、なんでリョーはサインしちゃったんだよ~、これじゃ明らかに安い仕事だろ~」 桜火、カイ、シュウは口々に後悔の念をこめた口調で話した。 「しょ~がないだろハァ、ベッキーがやたらハァ強気でハァ・・・」 息が上がった様子のリョーの上に、巨大な影が通った・・・。 「ギャォーーーーーン」 その咆哮は、聴く者の神経に一瞬で警戒信号を流させ、どんなに和んだ空気も一瞬で張り詰めさせる。 ―我の縄張りに入り込み、可愛い我が子が生まれる巣窟を荒らそうものなら、灼熱の火球でその身、焦がしてくれよう― そう思わせるような風格、緑色の鱗、ところどころに生えている数え切れないほどの棘。 そこに舞い降りたのは雄火竜リオレウスの雌の種類で、“陸の女王”と呼ばれ恐れられる、雌火竜リオレイアだった―――。 「はぁ~~、馬車道じゃねぇからこういう事態もあるって事だもんなぁ」 そう言って桜火は腰に差している二本の刀のうち、狐火を抜いた。 「やっぱり20000zじゃ少なかったよな」 カイは肩にしょったアルバレストを構え、弾丸を装填する。 「でもリオレイアって、たしか今A級WONTEDだったよな、10000zだったけか」 シュウは背中に背負った十字槍を勢いよく回転させ、切り込む体制になる。 「ほ~ら、これで一人当たりの報酬が7500zだろ?割りに合ってるじゃねぇか」 そう言って背中の大剣を勢いよく正眼に構えようとするが、 大剣の重量の勢いにバランスを崩し、剣はそのままの勢いで地面にめり込んでしまった。 「阿呆、様子を見るだけで20000zだったから請け負ったんだろ、こんな無用な狩りは依頼内容と関係ないぞ」 桜火は刀を肩に背負い、走り出した。 「まぁ、この働きのぶんはリーダーにオゴってもらうって事で許してあげるよ」 そう言ってシュウは二番目に走り出したが、桜火を追い抜いて一番にリオレイアに辿り着きそうだ。 そしてシュウは自分の間合いに入った瞬間、十字槍を一回転させ、勢いの付いた一撃を顔面に斬りつけた。 ―ザンッッ― 先制したのはハンター達だった。 続いて桜火が右肩からリオレイアの首筋に向かって刀を振り落とす。 ―ボワッッ― 狐火の刃から炎が数瞬、爆発するように燃えさかる。 しかし、雌火竜の二つ名を持つリオレイアには、その炎はあまり効果的ではなかった。 それでも、その剣閃で斬られた傷口からは、大量の血が吹き出た。 「グゥゥ・・・」 神経を傷つけたのか、なかなか反撃にうつれないリオレイア。 そこにやっとのことで大剣を地面から引き抜いたリョーが、大剣ならではの重い一撃を与える。 「どっせい!!」 顔面を見事に縦に斬りつけられ、大きな衝撃に脳を揺らされ、一瞬目がくらむリオレイア。 そこにカイの放った“貫通弾”という先端を尖らせ、貫通力をより高めた弾丸が翼を貫く。 「ギャオォォォ!!」 怒りの咆哮が山道に響き渡る。 溢れ出てくる火炎を体内にしまいこめず、口から炎の吐息となって漏れ出す。 「あんなに顔面斬りつけるから、めっちゃ怒っちゃったじゃんよ・・・」 「俺は首筋斬っただけだぞ、最後に綺麗に傷つけたのはリョーだろ」 「って事は・・・、怒りの矛先は俺かよ!?」 ・・・、通常なら非常に空気が張り詰める竜の咆哮だが、このパーティには残念ながらそれは皆無だった。 だが、緊迫した空気で体が硬くなり判断が遅れたりするよりかは、どんな状況でもリラックスした方が戦況は有利になりやすい。 現に、こうやって冗談を言い合いながらも四人の迎撃体制は整っていた。 「ガァァァッッ!!」 リオレイアは息を深く吸い込むと、灼熱の火炎球を吐き出した。 ―ドォォォォン― その火炎球は誰にも当たらなかったが、後方の木に当たり、その木は真ん中くらいまで見事に飛ばされ、大地に倒れ伏した。 どう見てもその火球は、当たれば即座に命の危険にさらされるほどの威力だった。 続けてリオレイアが狙いを定めたのはやはり、先ほど目眩がするほどの一撃を与えたリョーだ。 リョーに向かって噛み付こうと走り出す・・・が、なぜかリョーの一歩手前で立ち止まる。 『・・・・・??』 リョーは突進を防ごうと大剣を横に構えて防御体制をとっていたが、一瞬何が起きたのかわからず、防御体制を解除した。 全員が視線をリオレイアに向ける、リオレイアは大地を踏みしめ、後ろに少し下がり、リョーと距離をとった。 たった一瞬だが、長年の経験から、次の行動を読み取る。 「――――!?リョー、横に跳べ!!!!」 カイが叫ぶ・・・が、リオレイアと目が合っていたリョーは反応が少し遅れる。 どんなに熟練のハンターでも、凶暴な飛竜の目を見てしまうと、ほんの一瞬だが恐怖で体が動かなくなる事がある。 相手が怒りで攻撃しようとしているなら、その恐怖はなおさら増幅される。 逆に言えば、熟練や凄腕と呼ばれるハンターは、 相手と視線を合わさず、相手の動きや自分の動きなどに集中する事に長けていると言っても間違いではない。 モンスターの思考回路は単純だ、単純がゆえに、その目は気持ちを語る。 怒り、苦しみ、悲しみ、優しさ・・・、それを感じてしまうと、情がうつったり、恐怖におののいたりしてしまう。 おとなしくて優しい草食モンスターも、目を見てしまってはとても殺められない。 ―ザシュゥゥッ!!― リオレイアの尾は、弧を描くように宙を舞う。 その強靭な脚で大地を蹴り、体を縦に一回転させ、勢いのついた尾の一撃を与える攻撃だ。 リョーは反応が遅れたために、左肩を打ち付けられ、吹っ飛んだ。 左肩は胸当ての付いてない少し丈夫なだけの布生地なので、簡単に破け、尾に生えている毒棘が刺さっている。 その傷口は紫色に変色し、明らかに毒が回っている・・・・・。 「やべぇ、カイ!リョーを頼む!シュウは俺と一緒にこいつの気を引き付けるぞ!」 「はいよ!くそ、油断してたな・・・」 桜火とシュウは手を叩いたり、石を投げたりしてリオレイアの気をリョーから離れさせる。 リオレイアの標的が変わったのを確認し、カイがリョーの元へ走る。 「ギャォォォォ」 大きな鳴き声を発しながら、リオレイアは桜火を追いかける。 「リョー!意識あるか!?」 カイはリョーのそばに辿り着くと、瓶詰めのヌルヌルした液体を傷口に塗る。 「意識はあるけど・・・ちくしょぅ、左腕が動かねぇし、わき腹も痛ぇ」 「今解毒薬をつけたから毒はこれ以上回らないと思うが、とりあえず痛みが消えるまでここにいろよな」 そう言ってカイはボウガンを手に取り、弾丸を装填する。 「ギャォォォン・・・」 追いかけていたはずの桜火の急な方向転換に、前足がなくバランスが悪い体型が仇となったのか、転倒するリオレイア。 ―ズシャッッ、ボッ― 急激に左側に方向転換した桜火は、その勢いのまま反転し、転倒したリオレイアの後方をとり、勢いのまま尻尾に斬りつける。 次にシュウが槍を一回転させ、勢いのついたまま桜火の一撃で火が付いた場所を目印に、そこに斬りつける。 しかしその太い尾はちぎれる事はなく、皮一枚、鱗一枚といったところで繋がっている。 もう一撃、と桜火が構えた時、リオレイアは起き上がり、尻尾を右に、左に薙ぎ払う。 尻尾に吹き飛ばされた桜火とシュウは、二手に飛ばされる。 「グアァァァァ・・・」 リオレイアは、またも桜火に狙いを定め、息を吸い込んだ。 息を吸い込む・・・、すなわち、あの灼熱の火炎球を吐き出す合図だ。 息を吸い込み終わったリオレイアは、桜火に向かって口を開く・・・、その時だった。 ―ドガァァァン!!― リオレイアの左半分の顔面が爆発した。 いや、正確には左半分の顔面の表面で、何かが爆発した。 「ほんとはとっておきだったんだけどな、けっこう高いしさ」 そう言ったのはカイ、銃口から煙が出ている。 徹甲榴弾を撃たれた顔面は、左半分が爆発の衝撃でボロボロになり、弾道がズレた火球は、桜火のすぐ隣で爆発した。 「カイ~~~~、助かったぜぇ・・・・」 ふっと緊張の糸が途切れたような声で桜火が礼を言う。 「これで、一つ貸しだな」 そう一言、返した瞬間にリオレイアは怒りの咆哮を上げ、カイに突進する。 が、またも直前で止まり、距離を測るリオレイア。 『マズイ!』 頭ではそう思うのだが、重たいへビィボウガンを持っていて、 次の装填をしようとした最中だったために、とても避けられる状況ではなかった。 ―ズザッッ― 陸地を移動しながら縄張りを巡回する雌火竜の、その発達した脚は大地を蹴り、巨体を見事に宙に浮かせ、縦に一回転する。 その勢いで相手に強烈な尾の一撃を見舞う、雌火竜の必殺技だ。 「ギャォォォォォ!?」 しかし、その一撃はカイに触れることはなく、尾は本体と切り離され、カイの横をかすめた。 皮一枚、鱗一枚で繋ぎとめられていた尾は、勢いのある回転によってちぎれ、そのまま飛んでいってしまった。 当たれば必勝のリオレイアの必殺技が、逆に最悪な選択となってしまったのだ。 リオレイアは尻尾が無くなったことで痛みと同時にバランスを崩し、背中から落下。 何が起きたかわからなくて、混乱した状況だった。 その一瞬のスキをついてシュウは一気にリオレイアとの距離を詰め、頭を踏み台にし、真上に跳んだ。 十字槍を両手で持ち、先端を真下に構える。 さらに落下の勢いと自分の体重を加え、リオレイアの喉元に十字槍を突き刺す。 ―ザシュゥゥッッ― リオレイアは声を出す事も無くそのまま力尽きた・・・。 ホッ、とした表情のカイ。 「これで貸しはチャラだな、カイ」 そう言って近寄ってきたのは桜火。 「俺が尻尾をギリギリで斬らずにおいたから、お前は無事だったんだぜ、尻尾がなかったらあのまま突進されてただろうな」 「なっ・・・、ちょっと待った!ギリギリで残しておいたのは二撃目を加えたシュウだろ!」 「い~や、シュウが斬った場所は俺の斬った場所より少しズレてた」 「いや、って言うかカイの徹甲弾で左の視界が無くて距離感がズレたから尾が外れただけだろ」 「何言ってんだ、片目が無いくらいで距離感がズレるワケねぇだろ!?やっぱり俺の一撃が・・・」 「ほほ~、そんなに言うなら桜火とシュウの切り口を見てみようじゃねぇか、尻尾はどこだ?」 そう言って尻尾の飛んでいった方向を見る三人は、口をそろえて言った。 「あ・・・・・」 探していた尻尾は、大木に寄りかかっていたリョーの顔面のすぐ横にあった。 先端に生えている一際大きい毒棘がリョーの顔面スレスレの部分に突き刺さっている。 解毒の間休んでいたリョーは、恐怖のあまり気絶していた・・・・・。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ジャンル別一覧
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